パッサナーのブログ

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6か月悩んでいた「理論的枠組み」の意味が、ようやく分かった気がしたこと

昨日、小熊英二『基礎からわかる論文の書き方』を読んでいました。
昨年購入して通しで2回読み、その後も何回か部分読みをしています。
部分読みしているのは、第5章「方法論(調査設計)」と第6章「先行研究と学問体系(ディシプリン)」です。
この部分を何回も読んだのは、上野千鶴子『情報生産者になる』にでてきた「理論的枠組み」が分からなかったからです。
昨年9月から6か月間、ずっと心にひっかかり悩んできました。

(なお、理論とは、ある物事に関して、原理・法則をよりどころとして筋道を立てて考えた認識の体系、という意味です。(精選版日本国語大辞典より一部抜粋。))
(体系とは、一定の原理によって統一的に組織された知識の全体、という意味です。(精選版日本国語大辞典より一部抜粋。))

『情報生産者になる』には、論文を書くときには「理論的枠組み」を明らかにする、ということが書かれていました。
しかし、具体的にそれが何を示しているのかが分かりません。
通しで2回読み、「理論的枠組み」のところは10回以上読みましたが、分からない。
「理論的枠組み」の意味をネットで調べると、物事の大まかな像を、一定の理論に依拠して説明したモデル、とあります。
それ単体の意味は分かりますが、論文を書くにあたり「理論的枠組み」を明らかにするとはどういうことなのか、それが分かりません。

それで、『情報生産者になる』を読むのはあきらめて、『基礎からわかる論文の書き方』を読むことにしました。
この本は既に1度読んでいましたが、「理論的枠組み」に関係がありそうな、第5章「方法論(調査設計)」と第6章「先行研究と学問体系(ディシプリン)」を中心に読み返します。
『基礎からわかる論文の書き方』には「理論的枠組み」という言葉はでてきませんが、その意味を明らかにすることを念頭に置いて読んでみます。

そして、昨日読んでいて、「理論的枠組み」とは何かが分かった気がしました。
お風呂に入りながら、電子書籍リーダー kindle で読んでいたときです。
読書百遍といいますが、あることかも知れません。
本の文字は変化しないので、読んで変わったとすれば自分の頭です。
理解したことは、「理論的枠組み」とは論文を書くときに前提とするもの、ということです。

論文では、既存の理論の上に新たな理論を上積みします。
新たな理論は既存の理論と、論理的なつながりがあります。
理論と理論が論理的につながったものが学問の体系です。
(なお、「論理的」の意味は、前提された事件や事情から正しく推論するさま、です。(精選版日本国語大辞典より一部抜粋。))

例えば、新たな理論「ダムを放流する前には、川下に放流警報を鳴らすのが有効である。」を論ずるときには、既存の理論「重力の法則により、川の水は常に川上から川下に流れている。」を前提としています。
論文では、そのことを断っておきます。
これが、論文において「論理的枠組み」を明らかにするということです。

『基礎からわかる論文の書き方』では、理論とは法則というほどには確かと考えられていないが、いまのところ現実を説明できている仮説と考えられる、とあります。
ある学問分野で○○理論というとき、それはその分野において、法則とまでは言えないけれども、その傾向にあるとは言える、というものです。
だから、○○理論が認められている分野で論文を書くとき、○○理論を無視して書くことはできません。
いまのところ現実を説明できる仮説なのですから、論文を書くときにはそれを前提とします。

論文の方向には大きく3つあります。

1つ目は、○○理論の妥当性を補強する論文です。
この場合は、○○理論を前提に事例を分析し、その事例において○○理論が正しいことを証明します。
これによって、○○理論はより一層堅固なものとなります。

2つ目は、○○理論に修正を加える論文です。
これも、ひとまず○○理論を前提に事例を分析し、その事例においては○○理論があてはまらないことを明らかにします。
そして、○○理論の修正を求めます。

3つ目は、○○理論を根底から覆す、新たな理論を構築する論文です。
この場合も、○○理論を前提にした事例の分析から始まります。
そして、多くの事例で○○理論があてはまらないことを論証し、○○理論に代わる新たな理論を展開します。

既存の○○理論の妥当性を補強するか、修正を加えるか、根底から覆して新たな理論を構築するか、論文はいずれかの方向に進みます。
ただ、いずれにしても、いったん○○理論を前提にします。
ある分野で論文を書くということは、その分野で認められている○○理論を前提とし、それとの論理的なつながりを保ちつつ、物事を論ずるということです。

「理論的枠組み」を明らかにするとは、ある分野で認められている○○理論を前提にすると宣言することです。

しかし、『情報生産者になる』では、このことを理解しやすく述べている文章が見あたりませんでした。
ただ、「理論的枠組み」という言葉は何回もでてくる。
私にとっては、言語明瞭意味不明です。
定評のある本のようですから、私がこんなことを言うと、それはあなたのレベルが低いからと言われそうです。
しかし、何回読んでも分からなかったのは事実です。

『情報生産者になる』をあきらめて、『基礎からわかる論文の書き方』にシフトし、ようやく「理論的枠組み」とは何かををつかむことができました。
ただこのことは、『情報生産者になる』がよろしくない本だった、ということではありません。
この本を読むことで疑問が生じ、そのお陰で、『基礎からわかる論文の書き方』をより深く読むことができた、ということが言えます。
そういう意味で、『情報生産者になる』を読めたことはよかったです。
この6か月の「分からない」は、無駄ではありませんでした。